【映画レビュー】『HOKUSAI』を観た正直な感想と考察

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映画『HOKUSAI』公式 (https://www.hokusai2020.com/index_ja.html)
2020年製作/129分/G/日本配給:S・D・P 劇場公開日:2021年5月28日

「富嶽三十六景」など生涯を通して3万点以上の作品を描き残したといわれる江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎の生涯を映画化した作品「HOKUSAI」。

以前、この映画の解説記事を書いたことがあるのですが、今回はもう一歩踏み込んで、個人的な感想を書こうかなと思います。

ちなみに以前書いた記事は⇩。こちらもぜひ読んでくださると嬉しいです!

ほくさいぬ

個人的な感想なので、そこんとこよろしく!

目次

1. あらすじ

腕はいいが、食うことすらままならない生活を送っていた北斎に、ある日、人気浮世絵版元(プロデューサー)蔦屋重三郎が目を付ける。しかし絵を描くことの本質を捉えられていない北斎はなかなか重三郎から認められない。さらには歌麿や写楽などライバル達にも完璧に打ちのめされ、先を越されてしまう。

“俺はなぜ絵を描いているんだ?何を描きたいんだ?”

もがき苦しみ、生死の境まで行き着き、大自然の中で気づいた本当の自分らしさ。
北斎は重三郎の後押しによって、遂に唯一無二の独創性を手にするのであった。

ある日、北斎は戯作者・柳亭種彦に運命的な出会いを果たす。武士でありながらご禁制の戯作を生み出し続ける種彦に共鳴し、二人は良きパートナーとなっていく。

70歳を迎えたある日、北斎は脳卒中で倒れ、命は助かったものの肝心の右手に痺れが残る。それでも、北斎は立ち止まらず、旅に出て冨嶽三十六景を描き上げるのだった。そんな北斎の元に、種彦が幕府に処分されたという訃報が入る。

信念を貫き散った友のため、怒りに打ち震える北斎だったが、「こんな日だから、絵を描く」と筆をとり、その後も生涯、ひたすら絵を描き続ける。描き続けた人生の先に、北斎が見つけた本当に大切なものとは…? (公式サイトより)

2.映画をみた感想

まずは率直な感想から…

波乱万丈な人間の90年の生涯を、2時間でまとめるのには無理がありすぎる。

北斎にまつわる仰天エピソードはたくさん残っているので、ネタに困ることはないですが

逆にネタを詰め込みすぎて、一つ一つのエピソードが薄く感じるというか、感情移入する前に次のエピソードに行ってしまうので、場面転換が早すぎるんですよね…

でもそのエピソードを抜いてしまったら北斎らしさが減ってしまうような気もするし…

映画作りは時間の制約があって本当に難しいですね…

次は私自身が鑑賞して良かった点とイマイチだった点を分けて書きたいと思います。

この後はネタバレを含みますので、よろしければ作品を鑑賞した後に、もう一度戻ってきていただければ嬉しいです!

良い点①:田中 泯さんの演技が圧巻!

田中泯(Wikipedia)

葛飾北斎の老年期を演じた田中泯さん。

田中さんが映るだけで画面に圧が出ます。

青年期を演じた柳楽優弥さんが微妙というわけではないのですが、人生の灰汁というか、渋み・深み・エグみはどうしても歳をとらないと滲み出てこないのかなと思いました。

顔のシワや、振り乱れる白髪など…どの場面を切り抜いても絵面として完璧でした。

もう田中さんを見るために見たい映画だと思うほど、ハマり役だったなと思います。

また、これはこの映画全体に言えることなのですが、歳を重ねている出演者さんほど魅力的に映る映画だと思いました。

例えば、北斎を見出した版元(今で言うプロデューサー)蔦屋重三郎を演じた阿部寛さんなんかも、とても渋くてめちゃくちゃカッコよかったですよ…(女子目線)

田中泯さんはダンサー

そんな田中さんは何者なのか深掘りしたいと思い、色々と調べてみたのですが、田中さんの本職はダンサーのようです。

クラシックバレエやアメリカンモダンダンスを学び、1966年よりモダンダンサーとして活躍。

1974年より従来のダンスと呼ばれるもの、またダンス芸術界そのものに反発し、独自のダンスを始めるという超ロックな人。

個性を表現するような全身の体毛、髪の毛や眉毛に至るまでの全てを剃り落とし、ペニスには包帯を巻いて、体を土色に着色し、ほぼ裸体に近い状態で、劇場、ライブハウス、美術展覧会場、さらには即存の設えられた場所だけでなく、日常的な場所・野外など、ありとあらゆる場所で自身の信じるダンスとしての「ハイパーダンス」を展開したそうです。

1985年から山村へ移り住み、農業を礎とした日常生活をおくり、より深い身体性を追求しているそう。

カッコ良すぎる…

生き様だけでも、生ける芸術か?と思わせるほど、「表現」に人生を捧げている人なんですね。

絵とダンス…表現方法は違えど、生涯を芸術に捧げているという意味でも、北斎に適役ですね。

ほくさいぬ

キャスティングした人、ナイス!!!

イマイチな点①:序盤はやや退屈…

物語は、勝川派から破門され、のらくらと絵を描いてその日暮らしをしている北斎からスタートします。

役者は柳楽優弥さん。子役として若い頃から演技の世界に身を置いている役者さんですので、見事に青年期の北斎を演じています。

ただ、エピソードを詰め込みすぎなのか、どれかを抜いたら北斎特有の画狂老人感が出ないのか、テンポよくダイジェストエピソードを駆け足で見せられているような気がして、映画にあまり気持ちを乗せことができませんでした。

良い点②:東洲斎写楽とのシーン

そんな序盤の中でも、青年時代の北斎がライバル達と自分を比べて、いい絵が描けずに葛藤しているシーンはなかなか面白かったです。

例えば、たった10ヶ月の活動期間で姿をくらました謎の絵師・東洲斎写楽とのシーン。

写楽に対して、「門下に入らないのに(専門的な技術を学んでないのに)どうして人を惹きつける絵を描くことができるのか?」とモヤモヤする姿は、現代の日本人も共感する人は少なくないはず。

特に予備校や美術大学でデッサンを苦しい思いで習得した人に刺さるエピソードではないでしょうか?

いくら形をとるのがうまくても、理屈や技術で絵を描き上げることができても、それが「良い絵」とは限りません。

技術を積み上げて、それが点数化され評価される世界にいた人ほど、本質的な「良い絵」とは何かわからなくて悩んでいる人はたくさんいると思います。

またそれが、写楽を演じた役者が10代ぐらいの若い役者さんで、全身から溢れ出るピュアなオーラを放ちながら、曇なきまなこで

「ここの赴くままに描くだけです」

自分の胸に手を当て、悠々と答えてしまうんです。

こんなことを自信満々に言われたら、逆に自信喪失しちゃいますよね…

でも物語としてはとてもグッとくるシーンだったなと思います。

ほくさいぬ

その後、葛藤を乗り越えた北斎の清々しい表情もとても良いので、ぜひ見てほしいな!

良い点③:絵の具になろうとする北斎

物語後半で、北斎が絵皿で絵の具を練っているシーン。

突然雨が降ってきて、草履も履かずに庭に出て雨に打たれます。

絵皿に入った雨水が青い絵の具と溶けて北斎に跳ね、全身が青く染まります。

このシーンにはセリフがないので、よくわからない人もいるはず。

このシーンについて、自分なりの考察をしてみたいと思います。

「北斎は絵の具の気持ちを知ることで、より絵に近づこうとしたのかな」

と感じます。

今はデジタルでの作画が普及したので、こんなことを思う機会も減りましたが、アナログで絵の具や筆を使ったことのある人は、絵の具というか、〈素材そのもの〉に対してさまざまな思いを馳せたことがあるはず。

特に日本は八百万の精神で、どんなものにも魂が宿るという意識が強い。

北斎が絵の具そのものの気持ちを理解しようとして、絵皿で水に溶ける絵の具のように、自分が雨と溶けて“色”を出した時、どんな世界が見えるかを知りたかったのではないかと思います。

そう思うと、このシーンが絵を描く人の心を知ることができる、とても大切なシーンだと感じるはずです。

3. ヒットしなかった理由を考察

序盤はやや退屈と書いてしまいましたが(苦笑)、個人的には全体を通して楽しめました。

特に、美大・芸大・クリエイティブ系専門学校をはじめとした学生さん、現役のクリエイターや、ものづくりを趣味にしている人など、少しでも本気で何かを表現した経験がある人には刺さるはずの内容です。

しかし、興行収入を調べてみたら…たったの1億円

ほくさいぬ

(マジかよ…全然ヒットしてないやんけ…)

背景としては製作が2020年、劇場公開日が2021年5月28日と、コロナパンデミック真っ只中。

そして競合に、「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」 102億8000万円!

日本のアニメ映画史に残る大ヒット作品の公開時期と被っています。

これは話題をかっさらわれるわけですな…

だって私も、コロナ期にも関わらずエヴァは映画館まで行って見に行きましたから…(;▽;)

映画を見たい人は

配信サイトを調査したところ、現在U-nextとAmazonプライムで鑑賞できるそうです。
この機会にぜひ加入してみてください!

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ぜひ聞いてくださると嬉しいです。

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この記事を書いた人

化政文化研究家
某芸術大学 日本画専攻卒。日本人らしくありつつ、飾らないのに粋な江戸文化である『化政文化』に魅了され、その魅力を多くの人々に伝えたいと思ってブログを始めました。
普段はジャンルにこだわらず、インタビュー系の動画制作や、動画のテロップ入れなど、映像編集業務全般を担当しています。過去の動画制作数は1000本以上。

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